e-House

竣工年 2006
所在地 東京都世田谷区
主要用途 住宅
延床面積 100.80m2
主要構造 鉄骨造


住宅のしぐさ

お風呂が大好きな3人家族のための住宅である。敷地は東京でも有数の住宅密集地に位置し、プライバシーを確保しながら快適に生活するためには、周辺との距離のとり方などにさまざまなアイデアが求められる場所といえる。この制約の多い敷地だからこそ、クライアントや建築家の私的な思いを最後まで保ちながら、都市に住むということの可能性や楽しさにつながるような住宅をつくりたいと思っていた。

まず、入浴のための空間を充実させたいというクライアントの要望から、最初に浴室をもっとも日当たりの良い場所にすることが決まった。これを手がかりとして浴室を回遊するような導線が見出され、スタジオやダイニング、ベットフロアなどの機能が立体的に配置されている。それぞれの機能は床の段差と布のスクリーンによって分割されながら空間としてはゆるやかに連続していて、決して広いとはいえない住宅に大らかさと奥行きを生み出す。

内部空間はいろいろな方向に折れ曲がった壁に囲われ、さらにその上から透過性のあるエキスパンド・メタルのスクリーンとポリエステル・メッシュで庭と一緒に覆われている。この都市と住宅の境界面のていねいな調整によって、近すぎる周辺からのストレスは受け流され、内部空間はスクリーンの隙間から都市へとつながっていく。壁やスクリーンが折れ曲がったり地面から少しだけ持ち上げられているのは、頭で考えたプランニングや構成操作の結果ではなく、むしろ現実の周辺状況に対する人間のしぐさのような身体的反応、という方がいいだろう。これらの身体的反応の形状は、模型や現場でのスタディの中でまさに手探りで形づくられていった。

少し混んだカフェに入ったとき、周辺とわずかに視線をずらしたり隣の人と椅子の角度を微妙に変えるようなしぐさが、雑踏のざわめきの中に自分だけの空間をつくることを可能にする。そして、この住宅はその体をねじるようなしぐさで、周辺とのコミュニケーションを閉ざすことなく、都市にわずかに空いている1住戸分のスペースにすべりこもうとしているのだ。