柱と床

竣工年 2008
所在地 東京都
主要用途 住宅
延床面積 105.63m2
主要構造 鉄筋コンクリート造


博物館のように
これは私たちの3番目の住宅作品である。東京の建築密集地という前の2作品「e-HOUSE」「s-HOUSE」と類似した環境にありながら、そのかたちと意味はかなり異なったものとなった。 敷地は5m×14mと周辺と比べても小さく細長い。さらに3方を隣地に囲まれ、1つの短辺しか道路に面していない。前2作では密集を大らかに受け流すことを主題に、折れ曲がったスクリーンの自由な造形が用いられた。しかし、これほど小さな土地の場合、押し寄せる膨大な密集の条件に対応するだけでは不十分だ。最初に敷地を見たときから、この住宅に住まうことの歴史的形式を召還し、都市に立ち向かうような力を装填したいと考えていた。

8本の掘立柱
地盤は改良が必要なため、柱梁のグリッドフレームを採用し地盤改良の範囲を柱の下だけに抑えている。次に大きな基礎を伴う柱を室内側に移動し、床の端部をキャンチレバーとすることで建築の短辺をなるべく大きく確保する。そして、柱は室内に取り込まれる。土工事のとき、現場はまるで古代の掘立柱の発掘風景のようだった。 30cm角の8本のコンクリート柱が2.6m×3.0mのグリッドに置かれ、厚さ10cmの2枚の高床を支えている。一番上には木造の箱がペントハウスのように乗る。この明快な構成は、できる限り広くという施主の要望と都市の条件や法規に対する合理的な解答だが、コンクリートの荒々しい柱をその一員のようだと笑う、たくましい家族との協働がなければ実現しなかっただろう。

住宅と形式
約四畳半のグリッドが奥行方向に3間並び、両側に幅0.95mの側廊が取り付く1階に入ると、心地よい緊張を感じる。ここは土間と呼ばれ、屋外的、都市的な役割に充てられる。2階は天井高を適度に低くすることで緊張感と親密さというふたつの印象をもち、可動の収納や採光用の小さな中庭が寝室や水回りをゆるやかに分割する。3階まで上がると、大きな開口をもつ箱状のシンプルな空間とリラックスした雰囲気が迎えるだろう。ここには食堂という生活度の高い機能が置かれている。これから起こる家族の時間的変化については、間仕切壁ではなく室内に取り込まれた8本の柱が柔軟に対応する。このコンクリートの柱は構造であり、同時に未来の機能を新しく生み出す設えでもあるのだ。 現代の東京では、住宅の表現において守るべき秩序が存在しない。私たちはこの取り留めのない乱雑な自由の中に、博物館のような住宅をつくりたかった。そして、生活という日常の中に歴史的形式を組み込み、小さな住宅に伝統の連続と空間の緊張を与えることが出発点となる。グリッドフレームはモダニズムの、掘立柱と高床は日本住宅の歴史的形式だからこそ、自由な現代の生活に鮮やかに機能するだろう。私たちは、懐古主義ではない住宅と形式の新しい関係を見つけつつある。