空中の水平

展覧会実施年 2012
展覧会場 radlab


建築のはじまり

これは2012年に京都で行なわれた私たちの初めての個展である。主催者からは建築作品ではなく建築をつくる考え方を展示することが求められた。

建築をつくる技術は美しい。しかし技術とは無関係な三次元形態が跋扈する現代では、それを表現する方法が豊かではない。フレームを露出させるだけの表層的な即物性や、意味の無いキャンチレバーのような構造の特殊性に頼る事例が、今なお多く見受けられている。技術のような日常の営みを表現するには、どうしたらよいだろうか。

私たちにとって建築のはじまりは空中に水平な面をつくることである。その上に載ると人間は重力に逆らって空中に浮くことができる。そこには息を呑むような感動があるはずだ。ジャンプをすれば一瞬だけ空中に浮くことができるが、建築はその一瞬を永遠に引き伸ばす。

私たちの生活はほとんどが水平な面の上にある。しかし自然の中に水平な面をつくることはとても難しい。その難しさは力学的な魔法といえるほどである。何千年もの間、人類は柱と梁によって自然の中に水平な面、つまり床をつくってきた。それが日常になった現代では、その魔法は忘れられている。この忘れられた魔法を人々は技術と呼ぶ。

忘れられた魔法=技術を建築の普遍的な美しさとして伝えたい。ここでは紙コップや粘着テープのような100円ショップで売られているものだけを使って、空中にできるだけ大きな水平をつくってみた。100円ショップという制約によって空中に水平をつくる技術が分解され、その秘密がわかるようになる。

この中には圧縮力と引張力という異なる二つの力が上下に分かれて同時に流れている。そのため上下を逆にできない。そして片側で支えるときと両側で支えるときでは上下が逆になる。この当たり前で不思議な力の流れは通常見ることができない。それをこうして見えるようにするだけで、とても美しい技術の表現になる。

この力の流れを理解できる人はほとんどいないだろう。しかし美しいと感じることはできるはずだ。当たり前なのに美しい技術は建築の根源的な魅力であり、その技術を表現することは私たちの建築の原点である。