木の構築 Ⅰ
竣工年 2013
所在地 東京都八王子市
主要用途 弓道場
延床面積 106.00m2
主要構造 木造
架構と空間
中規模の無柱空間
このふたつの建築は、東京の西側にある大学の弓道場とボクシング場である。数百メートル離れて建っている。形式的な武道の弓道と、身体的な格闘技であるボクシングのイメージは対比的であるが、同時期に設計されたため、与条件に多くの共通点がある。まず、学生用のスポーツ施設なので、親しみやすさと高揚感の両方を持つこと。大学からの要望は木造とローコスト。そして、偶然同じ7.2×10.8mの無柱空間が求められた。古建築のお堂のような大きさである。この中規模の無柱空間を現代の木造でつくるには、これまでにないアイデアが必要だ。ここから、それぞれに固有の架構形式のスタディが始まった。
いくつかの合理
建築で新しいアイデアを生み出すためには、素材の内側から考えることが有効である。このため、木材の供給や工法の研究など多様な専門家の協力を得て、弓道場に家具材のような小径材、ボクシング場に食害の柱材が選び出された。また、モダニズムが放棄した日本の伝統木造から、水平と垂直の架構をサルベージすることで、弓道場に貫と束による繊細な格子フレーム、ボクシング場には大仏様の三手先を内側に反転した力強い天秤フレームが再発見された。建築の合理性は、力学だけでなく素材や歴史にもある。いくつかの合理性を並列して考えると、このようにひとつの合理性では思いもつかないアイデアにたどり着く。それは、木材という歴史的素材を変形して、現代に新しく生まれ変わらせることができる。
反転と補完
この木の架構は、ビスやボルトのような日常の技術だけでつくられている。しかし、空間の大きさゆえに日常の技術を徹底させなければならない。この徹底が空間の超越性を呼び起こす。それは技術の魔力であり、建築を建てることの美しさとなる。 ふたつの建築の主体は7.2×10.8mの空間である。木の架構はその背景にすぎない。この主体には何も無いことが求められていたため、背景の存在感を強化することしかできなかった。しかし、その結果主体の何も無さも高まり、背景とは異なる透明な存在感が生じている。この架構と空間は、個性を保ちながら時に反転してお互いを補完し、全体性を獲得する。ふたつの建築は、同じ地点からスタートしながら、まったく異なる架構と空間を経由して、最後にもう一度共通するテーマにたどりついた。