paper partition
finished year 2023
location Tokyo, Japan
principal use Temporary partition
total floor area 2483m2
structure Corrugated board
大量で同質の空間
これは、2023年に日本で開催された国際物理オリンピックの試験会場の間仕切りである。世界中の高校生を対象とする物理学のコンテストで、400名を超える多くの参加者に同質の試験空間を提供する必要があった。このような一度きりの空間に使用される大量の材料は、安く、かつ環境に配慮し、会場を使う期間をなるべく短くするために組立と解体が容易でなければならない。さらに、初めての日本での開催ということもあり、クライアントからは和風のイメージが要求された。これらの条件と要望を考えあわせた結果、段ボールで簡単に組立と解体ができるように作るという方針が決まった。
簡単な組立と解体
段ボールは、使用後のほとんどがまた新しい段ボールとして生まれ変わるため、リサイクル率は90%を超える。さらにベニヤ板などより安価で、かつ軽いため組み立てる際の取り回しも容易である。この素材で、接着剤と工具を必要としない接合方法を考えた。パーツ1枚の幅は流通の規格サイズを活用して900mm、高さは試験の運営の関係から1570mmとし、色は間仕切の中が明るくなるように白色にしている。基本的な構造は、穴の空いたパーツに突起のあるパーツを差し込み、栓をすることで固定するというシンプルなものである。また、突起の成を穴より2mm大きくすることで段ボール同士を噛み合わせ、接合部の摩擦力を高めている。段ボールでありながら木造の伝統的構法に通ずるディテールとなった。そうして出来たまとまりのあるパーツの端部を連結させることで、1600mm角の間仕切りを構成している。
装飾と機能の界面
日本人が初めて大規模な空間を使うようになったのは奈良時代であったが、大陸からの技術をそのまま使用した大空間は、日本人の身体感覚に馴染まなかったようだ。平安時代には舗設と呼ばれる間仕切りよって、その大空間を小さな空間に分割してゆく。その後に日本独自の書院造が成立していることを考えると、間仕切るということこそが和風の空間の原点であったのである。すでにある枠組みを分割することで取り組む問題を小さくし、作業の解像度を上げていく。このような日本における洗練的な美意識は、接合部の錺金具や木組端部の彫刻を生み出した。その細部は動植物や自然現象をモチーフに造形され、魔除けなどの小さな祈りが込められている。最終的には日光東照宮などで知られるように権威の象徴となり、現代の建築観からは遠い存在として思われていた。しかし、今回のような勝負事が行われる空間には、願掛けをあしらうのもいいだろう。様々な色と形で作ったアクリルの栓で、接合部の重要な役割を担わせながら間仕切りの出入口をささやかに飾った。この参照は安直にみえるかもしれない。しかし、装飾的な細部は機能的な構法の結果であり、装飾と機能の境目を明確に分けることはできない。その界面は薄いものとして捉えられがちだが、本来は豊かな幅広さがあったはずだ。